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ガラスコーティングの硬度について

今回はガラスコーティングの硬さについて少しお話させて頂きたいと思います。

ガラスコーティングの硬度(かたさ)は、“傷つきにくさ”や“変形しにくさ”を表しています(※1)。

コーティングや塗装業界での硬度には主に二つの尺度があります。

ですが尺度が二つあるということ自体あまり広く知れ渡っていないので、この二つの尺度が混同されてしまうことがよくあります。

①1つ目の尺度は、比較的馴染みのある「鉛筆の硬度」。

②2つ目の尺度は、鉱物の硬度を表す指標で海外でも広く用いられている「モース硬度」というものです。

この二つはどちらも引っ掻いた時の傷のつきにくさを表しています。

通常、樹脂やプラスチック、一般塗膜の表面硬度や引っ掻き傷への耐性を測る場合には、柔らかい素材まで幅広く計測できる「鉛筆硬度」
(JIS規格6B~9Hの17段階)が用いられています。

一方で、ガラスコーティング素材を取り扱う業者の多くは「モース硬度」(旧モース硬度1~10)を使用してきました。

しかしながら、最近ではガラスコーティングも「鉛筆硬度」で表示されている場合があり、二つの基準が混在してしまっているのが現状です。

下の図を見ると、同じ9という数値を比べた場合、「モース硬度」の方が圧倒的に傷つきにくさの尺度が高いことが分かります。

 

つまり、モース硬度の最大値である10は、ダイヤモンドと同じ硬さということになりますが、
鉛筆硬度の最大値9Hはモース硬度に置き換えると4~5ほどの硬さしかないということになります。

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*2017年4月 以下追記しました。

鉛筆硬度とモース硬度が混在してしまっていると書きましたが、多くの広告などではどちらで計った硬さなのかが特に説明がないままに掲載されているというのが現状です。

簡単な見分け方としては
・数字の後ろに「H」がついている → 鉛筆硬度
・数字の後ろに特に単位が書かれていない → モース硬度
です。
例えばスマートフォン用ガラスフィルムに「表面硬度9H」などと書かれていることが多いですが、この9Hは鉛筆硬度になります。9Hの鉛筆で擦っても傷が付かない、という程の意味です。

この9Hという数字ですが、モース硬度にすると4~5程度になります。

「9H」と「5」という数字だけを見ると一見すると「9H」の方が硬そうですが、
尺度が違うだけで大体同じくらいの硬さを示しています。

ちなみに最近のコーティングの広告などで「13H」と謳われているものがありますが、JIS規格では鉛筆の芯の硬さは9Hまでしかありません。

海外の鉛筆の芯では「13H」が存在するようですが、鉛筆として使うという用途上、その硬さはモース硬度10のダイヤモンドよりも硬いということはありえません。

ダイヤモンドよりも硬いのであれば紙に書くことができませんからね。

13Hという硬さはモース硬度では6~7程度になるものと考えられます。というのも、鉛筆の芯は粘土と黒鉛を混ぜて焼き固めたものなので、粘土を焼き固めたものよりも硬くなる事がありえないためです。

(2017年4月追記ここまで)

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ガラスコーティングを施工する際、コーティングの硬度が高い方が「傷がつきにくい」という印象を受けませんか?

ですが実のところ、硬度の硬さが高ければ、より傷がつきにくくて良いコーティングなのかと言うと、そうではありません。

なぜなら、いくら引っ掻いた時に傷がつきにくくても、全く傷が入らない・変形しない・壊れないという訳ではないからです。

現に、硬度の高いセラミックやダイヤモンドなどもハンマーなどで叩けば割れてしまいますし、逆に硬度の硬さが高くなればなる程、クラックと呼ばれる“ひび割れ”であったり、多層化による“剥がれ”などの現象が起こり易くなってしまいます。

仮に「モース硬度」で9のガラスコーティングが存在するとしたら、簡単に割れてしまいます。もし割れないのであるとすれば、コーティングがのっていないか、実際にはその硬度がない有機質のやわらかいものを塗っていることになります。

また、「10層の塗り重ね」などと表記された広告を見ることもありますが、塗り重ねると先に塗ったコーティング剤が溶けて混ざってしまう為、厚みは増さず、逆に気泡や細かなダストによる“密着率の低下”及び“剥がれ”が生じてしまいます。

ですので、もし本当に10層のコーティングが出来たとしても、反射光率が非常に悪くなり、顔も映り込まない様な仕上がりとなってしまいます。

さらに、コーティングに関しては下地の硬さも重要になってきます。

なぜなら、下地が柔らかいと、いくら上に非常に硬いものを被せても、かえって密着率が悪くなるだけで逆効果となり、コーティング本来の威力が発揮されません。

例えば、“爪”の上にマニキュアを塗った場合を想像してみてください。

下地の爪が硬いため、マニキュアは密着し、硬く持続性もあります。

しかし、柔らかい“肌”の上にマニキュアを塗った場合はどうでしょう。

マニキュアは密着せずパリパリと剥がれてしまいますよね。

このように下地の硬さにより、コーティングの硬さも持続性も変わってきてしまいます。

ガラスコーティングの液剤単体での限界硬度は鉛筆硬度の9Hといわれています。

しかし、これは液剤単体だけでの硬度であり、車の柔らかい塗装面にコーティングを塗った場合はこの限りではないということです。

したがって、車のガラスコーティング施工の際には、下地の塗装とコーティング剤の相性を見極めることが大事なポイントとなります。

なお、ガラスコーティング自体にどのくらいの硬さがあるのか目で見て実感出来る様にと、物で擦ったりするなどの実験が行われており、いかに傷がつきにくいかという実証として用いられることがあります。

しかし、これは“どういった物”に“何で”擦るかにより結果が大きく違ってくる為、実験で傷がつかなかったからといっても、それだけで一概に硬度が高いとは言えません。

異なる二つの物質を擦り合わせた時、どのような現象が起こるのかはそれぞれの物質の硬度や熱特性に大きく左右されます。

身近なものを例にあげると、

プラスチック素材は、素材自体が硬軟自在であり、様々な硬さのものが存在しています。

一番柔らかいものですと、軟質塩ビやポリエチレンなどで、手で曲げられる様な柔軟性のあるプラスチックのほとんどがこのいずれかとなります。

中程度の硬さでは、汎用プラであるポリプロピレンやABS、エンプラのPBTやPPEで、台所用品やキャビネット家具などです。

硬いプラスチックであれば、汎用プラであればスチロールやアクリル、エンプラならポリアセタールやナイロン、ポリカーボネートなどで、これらはCDケースや水族館の透明の水槽パネルなどに使用されています。

また非常に硬いプラスチックとして、曲げ弾率性ではアルミや鉄以上の強度を持つ、スーパーエンプラというものが存在しています。

上記の事から、同じプラスチック素材で、見た目が硬そうに見えたとしても、物質の硬度としては柔らかいものなどもあり、それらを用いて実証実験が行われた場合には、
当然“傷つきにくさ”の基準が変わってしまう
ことになります。

特に実験でよく使われる、使い捨てライターのガスタンク部分のプラスチックは、爆発危険防止の構造が施されており、一番外側は「鉛筆硬度」でH程度のやわらかいプラスチックが使用されています。

さらには、比較実験として全く同じものを擦りつけたとしても、擦りつけられる側の表面性状がわずかでも違えば、熱特性により摩擦係数も変わってくる為、全く異なる実験結果となり得るのです。

つまり、油膜や潤滑剤などを塗布することで、コーティングの硬度とは全く関係なく、摩擦係数により傷がつかない表面環境を一時的に作り出せるということです。

日本コーティング協会では、業界全体のさらなる発展を考え、ユーザーからみて分かりやすく、統一した基準や表示を用いることを心掛けており、
これからもダブルスタンダードや紛らわしい表示や広告がない様、常に正確且つ信頼のおける情報提供ができる様に努めていきます。

脚注
※1
硬さには大きく二種類の考え方があります。
一つは押した時にへこまない、変形しにくさを硬さとして考える考え方です。
この考え方での測定方法としては工業的によく用いられるビッカース硬度やヌープ硬度などがあります。

もう一つは引っかいて傷がつきにくいほうが硬い、という考え方です。
この考え方での測定方法はモース硬度や鉛筆硬度などがあります。

どちらがガラスコーティングの硬さの指標としてふさわしいか、といえば明らかに後者、
引っかいて傷がつきにくい方が硬い、という考え方です。
そのためコーティングや塗装業界では硬度は「鉛筆硬度」と「モース硬度」が主に用いられてきました。

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